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“ 遠く ”  [fiktion]

帰り道
夜空を見上げ
遠くを思う

今に始まったことではない
遠くは、最初から遠かった

ひとり見つめ、ひとり想う
ひとり、遠くを見つめ想う

近くなれたら

もっと遠くに近づけたなら




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いつかどこかで [fiktion]



あれが最後だった
とは
思いたくない

もう一度
いつかどこかで

もっといいときを
もっと幸福に満ちて

いつかどこかで


あれから
一度だけ訪れた
機会を逃してしまったのは
ほかのことに
気をとられていたから
だけでなく
半信半疑だったから

逃してよかったと
今は思う
思うことにする

傷ひとつ少なく
済んだから


いつかどこかで

そんな願いは
忘れてしまっている
かのように
一日が
また一日が
過ぎていく














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すれ違う  [fiktion]


エレベーターに乗った。

途中の階で、ベージュいろのシャツを着た、
背の高いひとが乗ってきた。
軽く会釈を交わす。

左斜め後ろに、そのひとは立ち、
エレベーターが動き出す。


「きれいなストールですね」

背後から、静かな声がする。

声のほうに振りむいて、

「ありがとうございます
..昨日、買ったんです」

と応える。


「いろが、とてもいいですね」

「このいろ、好きなんです
..さみどり… もえぎいろかな… 」

独り言のように呟く。


エレベーターが最上階に着いた。

細長い通路を、そのひとは、
右斜め半歩後ろから、
追い抜くことなく、ゆっくり歩く。

前を向いたまま、
真新しいストールの話を続ける。
背後から、そのひとが短く言葉を挟み、
その言葉に応えて、話を続ける。


広い部屋のドアを開けて、中に入った。
部屋は、とても混みあっていた。

そのまま、すっと、流れ解散。



どこの誰だか、知らないひと。

また会うことがあったとしても、
服が違ったら、きっとわからない。
同じベージュいろのシャツを着ていても、
わからないかもしれない。


ひとは、例えばそんなふうに、すれ違う。











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白いチューリップの花束 [fiktion]

ずっとずっと昔、あるひとと、
初めて、2人で出かけた。

待ち合わせは、JR目黒駅。
目黒には行ったことがなかった。
5分ほど遅れていくと、そのひとは、
「遅い!」と、笑って言った。


庭園美術館に行くと、休館だった。
そのひとは、がっかりしていたけれど、
わたしは、初めて見る建物を眺めて楽しんだ。

自然教育園に行った。
殺伐とした、冬枯れの森だった。
都会の真ん中に、こんな場所があるのかと思った。


おそば屋さんで、お昼を食べた。
おそばをごちそうする約束だったから。
おいしいおそば屋さんだった。


外苑西通りを、ずっと歩いた。
北里大学の古い木製の看板を見た。
ちょっとした高台にのぼって、街を見た。

右も左もわからないまま、ついて歩いた。
歩くばかりで、あまり話はしなかった。


根津美術館の横の坂道を上っていった。

花屋さんがあった。
店の前を通り過ぎてから、そのひとは、
「なんだか、あなたに花を買ってあげたくなった」
と言った。

「どうして?」と、立ち止まって、わたしは訊いた。
あまり笑わないほうだったので、
たぶん、真顔だったと思う。

そのひとは、困ったような顔をした。

言葉が足りなかった。
「どうして買ってあげたくなったの?」
と訊かれたと思ったに違いない。
誰だって、きっと、そう思う。

すぐに気づいて、
買いたくなったのに、どうして買わないの?
という意味だったのだと説明した。

そのひとは、ぱっと嬉しそうな顔をして、
「買ってくる」と言って、引き返した。

しばらくその場で待っていると、そのひとは、
手を後ろに隠しながら、戻ってきた。


白いチューリップの花束だった。

10本くらい入っていて、
ちいさく、きっちり、つくってあった。
リボンの色は覚えていない。

「ありがとう」と、受け取った。

嬉しかった。
チューリップは、好きな花だし、
しゃんとした、元気のいい花だった。


「あなたが白いセーターを着てるから」
と、そのひとは言った。

その日わたしは、アンゴラ・モヘアの、
ふわふわした、白いセーターを着ていた。
ベージュの、ふくらはぎ丈のプリーツスカートに、
黒や茶や灰色の混ざったような、地味な上着。
あまりヒールの高くない、オフホワイト系のパンプス。

その日の空模様のような、モノトーンだった。


スパイラル・ビルに行った。
とても楽しいところだった。

表参道を歩いて、JR原宿駅に着き、
駅のホームで、左右に分かれた。



ずっとずっと昔。
19歳の、エイプリル・フール。





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薄いブルーのひと [fiktion]

散歩に出て、ひさしぶりの道を行った。

人通りのほとんどない道の角を曲がると、
向こうから、自転車に乗ったひとが来るのが見えた。

そのひとは、すぐに自転車を降り、
ちいさな門を開けて、車庫に自転車を置くと、
玄関の扉を開けて、家のなかへ入っていった。

てきぱきとした、慣れた動作で、
あっというまの出来事だった。


そのひとは、背が高く、短い髪をしていた。
おおきなマスクで顔は隠れていたけれど、
隙間からのぞく、ぱっちりとした目は、
どこかで見たことがあるような気がした。

薄いブルーのシャツに、
薄いブルーのジーンズで、
いかにも、休日の普段着姿。

その家の前を通るときに、見てみると、
そのひとが乗っていた自転車も、
薄いブルーだった。


あのひとは誰だろう、と思った。
きっと、あの家に住んでいるに違いない。

誰だろう、あのひとは。


その日からしばらく、
そのことばかり気になっていた。

知りたかった。
確かめたかった。

でも、どうすればわかるだろう。
誰が教えてくれるだろう。


気になる思いは、しだいに薄れ、
わからないことは、わからないまま、
時が過ぎた。

あれから、そのひとを見かけていない。
よほどのことがない限り、
そんな偶然は、あるはずもない。

今はもう、遠い遠い、過去の出来事。
始まらなかったことが、終わっただけ。



あれはいつかの、春分の日。